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東京高等裁判所 昭和50年(く)207号 決定 1975年12月10日

少年 K・O(昭三三・一・二五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は少年作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対して、当裁判所は、次のとおり判断する。

所論は要するに、原裁判所の処分が著しく不当であると主張し、少年が家庭裁判所で審判を受けるのは今回が初めてであり、少年は反省しているから、一回ぐらいは少年院送致以外の保護処分にしてもよいではないか、というのである。

よつて記録(少年調査記録を含む)を調査して検討すると、本件の事実関係は、原決定が認定判示するとおり、少年が

(一)  昭和五〇年一〇月五日午後一〇時三〇分ころ、静岡市○○×丁目××番地××に所在する○藤方車庫内で、○藤○子所有の運転免許証一通を窃取し、

(二)  同月七日午後一一時ころ同市○○×××番地×に所在する○○中学校建設工事現場事務所内で、○月○所有の現金約四〇〇円、たばこ、コカコーラ、チョコレートなど一三点(時価合計一、〇九〇円相当)を窃取し、

(三)  同日午後一一時三〇分ころ同市○○×××番地×に所在する○○ボウル駐車場内で氏名不詳者所有の南京錠一個を窃取し、

(四)  同日午後一一時四〇分ころ同市○○×××番地×所在の空地で自動車内から○野○三所有のエンジンキキー三個を窃取し、

(五)  同月八日午前一時ころ同市○○町×丁目×番地×に所在する○○火災駐車場内で、○松○雄所有の普通乗用自動車一台(時価六五万円相当)を窃取し、

(六)  同日午前一時三〇分ころ右駐車場内で○見○明所有の普通乗用自動車一台(時価七〇万円相当)を窃取し

たというものである。関係証拠によれば、少年が右(五)において窃取した自動車を少年が無免許運転中、同市内の商店街のアーケードの鉄柱に激突させて、自動車を大破し、鉄柱も破損し、少年はさらに右(六)のとおり自動車を窃取して、これを運転したことが認められる。

ところで、右少年の事件が家庭裁判所で審判されるのは今回が初めてであることは記録上明らかである。しかし家庭裁判所は、初めての事件であれば少年を少年院に送致しないで、必ず在宅処分で済ませると決つてはいない。家庭裁判所では、事件の性質、少年の性格、家庭環境、などを考慮したうえ、少年を施設へ送致するか、家庭へ返して監督するかなどの処分を決定するのである。そこで本件記録を見ると、右少年は、動め先が決つても遅刻や無断欠勤が多く、勤めが長続きせず、定時制高校も怠けて成績が悪く、もらつた月給を二、三日で使つてしまつたり、免許を持つてないのにオートバイを買い入れて、その月賦を払わなかつたり、その気分にむらがあつて、落ちつきがなく、してはならないことをしたくなつたときに、そのような悪い気持を抑えることができず、将来のことを考えないで、行きあたりばつたりにやつてしまう、他人から注意されると、しばらくは注意を守つているが、すぐにそれを忘れる、などの性質が見受けられる。そして少年の母は小学校時代に死亡し、父が昭和四九年八月に死亡してからは、少年は静岡市に住む兄K・Jと同居し、その監督を受けて来たが、会社員の兄が甲府市へ単身赴任してからは、少年の監督がむつかしくなり、少年と兄嫁とは折合が悪く、そのうえ、まだ二四歳の兄K・Jは、妻と三人の子を抱えて、その生活が楽であるとは思われないから、さらに少年を同居させて、その面倒を見ることは大きい負担となると思われる。右K・Jのほかには少年の身柄を引き受けて、これを監督できる親戚等は見当らない。

このように考えると、少年が現在は反省しているとしても、その反省の気持がどれだけ長続きするか疑いが残るし、少年のむら気で、ものごとが長続きしない性格をなおすためには、少年を少年院に収容して、厳しい教育を受けさせることが、少年法の精神から見て不適当であるとはいえない。

従つて、少年を中等少年院へ送致する旨の処分が、著しく不当であるとはいえないから、論旨は理由がない。

よつて、少年法三三条一項により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 綿引紳郎 裁判官 石橋浩二 藤野豊)

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